この記事はSpeedcubing Advent Calendar 2020 3日目の記事です。2日目の記事は2006NISH01さんの「ルービックキューブを解くプログラムを書いてみよう(後編:状態のindex化, Two-Phase-Algorithm)」でした。4日目の記事はTK16zaemonさんの「息子らに影響されてスピードキューブを始めた中年はかく思う。」です。
こんにちは、うえしゅうです。
僕は2007年にスピードキューブを始め、2012年の大学入学と同時に世界のキューブに関する情報を積極的に取り入れるようになりました。そこで、2012年から今現在2020年に至るまでのWRの歴史を振り返り、その中から印象深かったWRをその頃のキューブ事情なども交えながら紹介していきたいと思います。
僕が大学に入って最初に知ったWRはMatsの4x4WRです。このWRはYauで初めて出されたWRになります。これまでのWRはFeliksが持っていましたが解法は32223(コーラ式)でした。Yau methodは日本ではすがっちさんの動画である程度知られてはいましたが、マニアックな解法という認識で使っている人は少なかったです。しかし、このWRの5ヶ月後の9月に出されるFeliksの4×4 single WRでFeliksがYauを使い始めていたことがわかり、世界中のキューバーがYauに乗り換えた記憶があります。
FMC界初のGod's Numberは日本人の手から生まれました。岡山さんは2009年頃からFMCをやられていましたが、英語が堪能な方で海外のFMCの情報を独自に取り入れ成長していました。この記録もチェコの大会で出されたものです。内訳としては、13手4CPの9手キャンセルで、最初の20分ですでにスケルトンは見つかっており残りの30分を全てインサートに費やしたそうです。ここから3年間この記録はトップに君臨し続けました。
Feliksが5×5のトップを独走していた時代に突然名前の知られていないキューバーがsingle WRを更新しました。この試技以外の4試技は全てover65しているので相当なラッキーケースだったのではないでしょうか。この時使われていたキューブはV-Cube 5×5で、これは当時一番使われていたShengShou 5×5よりひとつ前の時代に使われていたキューブであったため非常に驚かれていました。
Chrisの初のWRです。ChrisといえばLaZer0MonKeyが出てくるまではキューブ系YouTuberの代表格と言っても過言ではないくらい質の高い動画を投稿していました。この頃は本当に2×2といえばChris、Chrisといえば2×2、そんな時代でした。
Matsの快挙!ついにFeliksの牙城を破る!3でFeliksに勝てる人は誰もいないという時代に初めてFeliksを破る人が現れました。解法はOLLskipからの裏Ua-permからのAUF U2でAUFはシングルトリガー2回でした。Matsが控えめに喜んでるのに会場がそれに気づいていなくてまばらな拍手だった印象です。2013年の世界大会や2015年の世界大会でもFeliksとMatsは3決勝でHead to Headの戦いを行っており、この2人は永遠のライバルでした。そう、Maxが現れるまでは…。
Marcell Endreyは2011年頃に頭角を見せ始めたBLDerであり、人類で初めて3BLD singleと3BLD meanでsub30を達成しました。彼は元々M2/R2使いだったらしく、バッファはDF/DFRでした。その頃レターペアの概念も3-styleの概念も知られてなかった日本からするともう理解をとうに超えていた存在でした。そんなMarcellは2013の世界大会で3BLD、4BLD、5BLD、MBLDのBLD系種目全てで優勝する快挙を達成しました。その中でも5BLDの記録は凄まじくて、1試技目8分、2試技目7分からの3試技目6分でsingle WRを更新しmeanを残しての優勝となりました (この頃はまだ多分割BLDのmeanは非公式記録でしたが)。Marcellの言っていた多分割BLDの記憶のコツとして、前の試技と記憶が混ざらないように大会の3試技にそれぞれ笑い、悲しみ、怒りといったテーマを決めそのテーマに沿ったレターペアストーリーを構築していくと聞いたことがあります。
Marcell以外が3BLD WRを取るのは久々で驚きました。このZalewskiはBLDerにしては珍しく3×3が速く、8秒くらいの記録を持っていました。しかしこのWRにはある問題がありました。WRの動画は最初数秒経過したタイミングからスタートしており、WCAが怪しんで運営と競技者を追及したところ、実は運営側が競技者Zalewskiに試技時のキューブの向きを事前にこっそり伝えていたことが判明!3BLDでキューブの向きを把握することは1秒ほどの短縮につながるため、WCAはこれを不正と認めこの競技者を一定期間の出場停止処分に処しました。この一件や後述するMarcin Kowalczykの件により、3BLDの公式スクランブルの最後2手が二層回しとなりキューブの回転をスクランブルに含めるようになりました。(ただしジャッジはスクランブル通りのキューブの向きにキューブを置く義務はありません)
この頃2×2界ではChris Olsonがトップを走り続けていました。そんな中Sammerは自身初めての2×2の大会でなんと人類初avg sub2のWRを出してしまいました。ChrisがWRを更新していくだろうと思われた時代に突如新生が現れたのはとても驚いた事を覚えています。
Marcin Kowalczykはネット上では「Maskow」というHNで活動しており、MBLDは彼がWRを独走していました。そしてMBLDのWRを41/41にまで押し上げてしまいました。しかしこの記録を出した時全てのキューブが彼の基準面に既に置かれており、これは許されるのかといった議論が浮上しました。結果この記録は認められましたが、先に述べたMarcin Zalewskiの一件もあってBLDのスクランブルに二層回しが含まれることとなりました。ちなみにMaskowは他の人とは違いエッジにナンバリングをしておらず、任意の2ステッカーと1つのイメージを対応させて文字を介さずにストーリー記憶を行っていたようです。また、MaskowはMBLDだけでなく3BLDも相当強かったですが、彼が3BLDを練習する一番の理由は3BLDのタイムを縮めてMBLDの個数を増やすことだったという逸話もあります。
Feliksは2010年に突如現れてたった1年で3のWRを10秒から7秒まで縮めてしまいました。それに追いつけ追い越せと他のキューバーは記録を縮めていきFeliksの7秒に迫るほどに近づいていきましたが、Feliksはavg WRを7.53から6.54と1秒近く縮めて他のキューバーとの差をまた大きく広げてしまいました。この時使っていたキューブはMoYu WeiLong v1で、DaYan ZhanChi全盛期に現れた新生メーカーMoYuの最初の製品です。このWRにはハードの進化も一つの要因として挙げられるかと思います。
7×7が最初に発売されたのは2008年頃でV-Cube 7という丸っこいpillow系キューブが最初でした。今みたいに四角くないため持ちづらく回しにくくてあまりタイムは出ないものと思われていました。そして時は流れこの頃はShengShou 7×7という普通の四角いキューブを使うのが主流でした。しかしLin Chenはトップキューバーの中で唯一V-Cube 7を使い続け、あの回しにくいキューブでsingle WR 2:39を出してしまいました。今でも7で2:39はそこそこ速いタイムと思われるほどですが、それをあのV-Cube 7で出すのはどうかしていると思います。
2014年にはアジア大会が日本で開催されました。国際大会が日本で行われるのは初で、アジア各所からトップキューバーが集まってきました。その中でも韓国はWRレベルのキューバーが多く、韓国では大会が年1ペースでしか行われないという事もあって韓国キューバーがこの大会でWRを連発する事になりました。Yu Da-Hyunは韓国の女性キューバーで、YouTubeにMegaminx 40秒の動画を上げるなど以前から知られていました。そしてこのアジア大会で予選・決勝ともにWRを大幅に更新し会場は大盛り上がりでした。。single WR 37秒の時は僕はYu Da-Hyunの後ろの席でYY君のジャッジをしていたんですが、目の前でWRを見るのはこれが初めてでとても興奮したのを覚えています。ちなみに同じ大会でClockでも韓国のYunho Namが圧倒的WRを出していました。
前回の3×3 single WRは2年前でそろそろFeliksあたりが出してくるだろうと誰もが思っていましたが、出したのはCollinでした。Collinは2014年のUS NationalでFeliksを負かして優勝するなどノリにノッているキューバーで、ソルブ内容はOLL55の無交換OLLCPからのAUF無しPLLskipでした。OLLCPという考え方が日本に馴染み始めたのもこのWRからだったように思います。Collinの使ったOLLCPは今でもCollin's OLLと呼ばれる事もあります。このWRの思い出は何と言っても動画内の奇声でしょう。ソルブが終わってみんなが驚いて騒ぎ始めたところまでは良かったのですが、ある子供が驚きすぎてキンキン鳴り響く奇声を発して動画もとても見れたもんではありませんでした。今でもネタにされる事が多いです。
中国の大会でHaixin Yangというあまり有名ではないキューバーがOHでLLskipを引き8.27のsingle WRを更新しました。そしてその一週間後、FeliksはOH single WR 6.88というとんでもない記録を出してWR更新してしまいました。このFeliksのWRはのちにミススクランブルと判明しましたが、崩れ具合がそこまで変わらないという理由でWRは正式に認定されました。ソルブ内容としては3手クロスからのH case無交換ZBLLでした。中国のLLskipの方は本当にかわいそうだなと思います。後述のKeaton Ellisほどでは無いですが…。
Rami Sbahiは全盛期のChrisから2のavg WRを取り返した事で有名になったキューバーです。このWRはR U2 R2 Fの4手で完成できるスクランブルだったのですが、Ramiの試技前にある子供が4手スクランブルが来た事をRamiに伝えてしまったようです。それを知ってしまったRamiは4手スクランブルを解いてsingle WRを出すのですが、試技後に運営にその事を伝え、協議の結果WRとして認められる事となりました。2×2などの少分割の場合簡単なスクランブルは速い人のタイムを見る事ですぐにバレてしまい後に試技する人に有利になってしまうというのは昔から言われる話であり、いまいち解決策が見つからない永遠の課題でもあります。
Clockの世界記録が4.80から3.73へと1秒以上も更新されました。コンマ1秒単位で競われている少分割競技で1秒も更新されるのは滅多にない事で驚きました。確か1面のクロスが既に3つ出来ていたと聞いています。この動画の面白いところはWRを出した直後に喜びのあまり椅子を倒して走り回っていたところで、コメントにR.I.P Chairとたくさん書かれていました。これ以降海外キューバーのWRは椅子を倒して喜ぶ人がいるたびにR.I.P Chairというコメントが付くようになりました。
岡山さんが20手を出してから3年、ついにGod's Numberを超える人が現れました。Tim WongはBLD系で強いキューバーとして知られていましたが、FMCでのWRは意外でした。ソルブ内容は17手3CPからの6手キャンセルで、最後のNiklasのキャンセルみたいな感じでした。この記録も今後相当長く持つことになります。
3×3初の4秒台はLucasが出しました。ソルブ内容についてはろーだいさんのブログ記事に詳しくまとまっているのでそちらをご参照ください。この記録の面白いところは、実はLucasが4秒を出す数十分前に同じ大会でKeaton Ellisが5.06のWRを出していたのです。しかし同じ大会でLucasにWRを出され、KeatonのWRはWCA上は無効となってしまいました。Keatonは最近にもOHでキューブを落として7秒を出しWR failするなどつくづく恵まれない運命を背負っています。
Square-1はこれまで中国のBingliang Liがトップを独走していました。またハード面でもmf8やCalvinのような競技用として作られていないパズルしかなく、POPがひどく使い物にならないレベルでした。しかしこの年新進気鋭のキューブメーカーQiYiが競技用Square-1を発売し、それを使ったBrandon Linが初めてのWR avg sub10を達成しました。Brandonは翌年からその頃知られていなかったCubeShape Parity(CSP)の解説動画を上げ始め、それによってCSPが世界に広まりWRが更新されていく事となりました。
Nicolas Naingは全く無名のキューバーで大会も未参加でしたが、speedsolving.comにMegaminx 40秒前後のWRレベルの記録を投稿していたことで一躍有名になりました。当時はその記録を信用する人も少なかったですが、前述のBrandon LinがNicolasのソルブを動画に撮ってYouTubeに上げたことでその声は無くなりました。Nicolasは大会に出るやいなやNARを軽々と更新し、さらにはWRまで更新してしまいました。Nicolasの持つMegaminxは確かShengShou Auroraでしたが、めちゃくちゃmodしてあってコーナーやエッジの角は丸っこくなっているのが印象的でした。
Matsは自身2度目の3×3 single WR 4.74を出しました。ソルブ内容がBRスロットVLSからのPLLスキップだったことも話題になりました。詳しいソルブ内容についてはろーだいさんのブログ記事をご参照ください。WR 4.74が出たのを記念して、MatsのスポンサーでもあるQiYiは47.4mmキューブのValk miniの販売を開始しました。一般的な3×3キューブは56mmなので47.4mmは思った以上に小さく、子供向けもしくは手の小さい人のOH向けといったキューブでした。キューブのサイズ展開はDaYan ZhanChiの57mm, 55mm, 50mm以来だったのでけっこう新鮮でしたね。ちなみにこの1ヶ月後にFeliksが4.73を出しWRを更新しますが、その時隣りに座っていたのはこのMatsでした。さぞかし悔しかったでしょう…。
Max Parkは今でこそキューブのWRを総なめにしていますが、最初のWRはOHでした。MaxのOHのソルブスタイルは机を多用して持ち替えながら解いていくスタイルで、美しくないなど批判も多かったです。僕個人の意見としては速いのが正義だと思っているので批判的に思ったことはなく、むしろどういう場面で机を使うと良いのかMaxにexample solveを撮ってほしいくらいです。
Maxは少しずつWRの数を増やしていき、ついには3×3 avg WRを取るまでになりました。3のavgは2010年にFeliksが初めてのsub10を達成してから7年間Feliks以外が持つことはなかったので、Maxは偉業を達成したと言えるでしょう。ソルブ内容はごくごく普通でSkipも無く、TPSが鬼速いという感想以外持てませんでした。
3のavgの初sub6を達成したのはやはりFeliksでした。4試技目で引っかかりながらもZBLLを回して6秒を出した時点でWRが確定し喜びを爆発させていました。そして5試技目、T caseの簡単なZBLLを回して5秒を出し、avg sub6を達成しました。これでWR初sub10~WR初sub6まで全てFeliksが独占したことになります。
Drew BradsはPyraminxが速くて有名なキューバーでしたが、良いタイムを出したときのオーバーすぎるリアクションも有名でした。2017年のパリの世界大会のPyraminx決勝で2.04のavg WRを出した時は喜びのあまり壇上を走り回り、ぐるっと一周して帰ってきました。その時に同じく決勝に残っていたLiviaという女性キューバーとハイタッチをするのですが、あまりに大振りだったためLiviaが「痛ってえ~」みたいな顔をしていたのが印象的でした。Liviaの腕が心配です。
Daniel Ross-Levineは3も速いですがこの時足競技に力を入れていて、足用ZBLLを覚えているくらいには入れ込んでいました。このDanielのWR single 16.96はF2Lの4スロット目をスレッジハンマーで入れるとLLskipするという超ラッキーケースで、Danielも椅子から落ちるほど驚いていました。足競技はTPSが出せなく手数勝負となるためLLskipの有用性は他競技よりはるかに高いです。この記録ももう当分更新されないだろうと思いましたが、足競技が廃止になる数日前の大会で15秒が出て陥落することとなります。
OHのavg WRはAntoineやFeliksが持っていた後はMaxの独壇場となり初avg sub10もMaxが出しました。しかしそれを塗り替えたのはRouxerであるKianでした。ソルブ内容は9, 9, 8ときてからの爆弾15秒。最後の試技にプレッシャーがかかりますが最後安定して9秒を決め見事初のWRを手にしました。RouxでのWRは史上初でありあの伝説的なAlexander Lauも両手世界3位までしか行くことができなかった領域です。この辺りからOHにRouxを使う競技者が増え始め、IuriやZhouhengなどのOH sub10 Rouxerが現れることになります。RouxはCFOPと違って頑張れば持ち替えをゼロにできる解法で手数もCFOPより少ないため、LSEのMU系をどうにかすればCFOPより最適な解法になりうるようです。最後にWR直後にKianが残したメッセージを皆さんに贈ります。「Roux is the best method for OH. CHANGE MY MIND.」
2013年のMaskowの出した41/41は相当長く持ちましたが、Markが43/44を出したことでその幕を閉じました。この辺りはMark、Shivam、Yucheng辺りがMBLDで競い合っていましたが、ついにShivamが48/48の全成功で初めてのWRを出すことになりました。Shivamは2014年の日本でのアジア大会にも参加しておりMBLD3位入賞していて、その時4位だった平出君が全然名の知れないShivamに負けて入賞を逃したのが悔しくて練習を重ねてMBLD NRを取ったという話があったりなかったり。Shivamの48/48の動画では途中からハエみたいな虫がキューブの周りを飛んでいて、結局試技が終わるまでずっとキューブに止まっていたのを何となく覚えています。
Feliksが4.22を出してから誰が最初にsingle sub4を出すのかと期待していましたが、自分が全く知らないキューバーだったYusheng Duが初sub4を達成しました。ソルブ内容は赤クロスのdouble XcrossからのSune PLLskipで27手だったかと思います。同じ大会に中国留学中のAntoineが出ており彼も赤オレンジクロスなので同じ解法になったんじゃないかと思っていましたが、この頃CNを練習していたようでもしかしたら別のクロス色で解いていたからSkipが引けなかったんじゃないかと推測しています。このWRは今までの3のWRの中で唯一完全な動画が残っていない記録で、誰も動画を撮っていなかったみたいなんですが最終的には会場の防犯カメラに小さく写っていた動画が見つかってそれが公開されています。NRやWRが狙える皆さんはぜひスマホスタンドを使って自分で撮ったり友達に撮ってもらうかして動画を記録してください。心からのお願いです。
人類初のsub Godである19手は2018年暮れについに18手に更新されました。その時はさすがにあと数年は更新されないだろうと思っていましたが、2019年はDRが爆発的に普及してFMCにおいて革新的な年となり年明けにWRが17手に更新されました。この記録は初のDomino Reduction(DR)でのWRであり、6手でDRが完成するというとんでもないスクランブルでした。その頃DRを研究していたRobert YauとSebastiano Trontoも同じ6手DRを見つけていましたが、Harryが勝った勝因はDRから7手かけてHalf Turn Reduction(HTR)を行ったことでその後4手で完成するルートを見つけたことです。DR後はブロックビルディングをしていくかコーナーを揃えていくかが標準的な解き方ですが、この頃HTRを使っていた人はほとんどいなかったように思います。ちなみにSebastianoは18手を、Yauは19手を見つけていました。Harryはmean WRも狙えるチャンスがありましたが他の試技が奮わずSebastianoが当時4人目のmean WR 24.00を叩き出しました。この当時WRは24.00でずっと止まっていたため自分自身もmean WRをひそかに狙っていましたが、果たして最初に出すのは誰になるのか…。
年明けにHarryが17手を出した時はもうさすがにsingle WR更新はあと数年は無理だろうと思っていました。というのも、optimal16手のスクランブルは全体の3%しかなく大会で30回試技をして1回出れば良い方という完全なスクランブル依存のWRであったからです。しかし17手の2ヶ月後に開かれた初の全世界同時開催の大会 FMC Worldの1試技目、前回18手で負けて涙をのんだSebastianoが16手を出してしまったのです。ソルブ内容はやはりDRで、10手DRのgood cornerからの4手で5エッジでした。Sebastianoはそこからインサートを3回行い、1回目は3エッジをインサートして2エッジx2にし、2回目はM2をインサートして4センターにし、3回目でセンターをインサートして20手を導き出しました。しかしSebastianoはもっと縮められると思い解法の一部を入れ替えるreplaceを行い6手を4手に変えたことで18手に変わりました。しかしなんとその4手のうち2手が元々の解答とキャンセルを起こし16手となってしまったのです!以前17手を出したHarryも参加しており同じ14手5エッジを見つけていましたが、彼は途中に5エッジ手順を直接インサートし21手という結果に終わっています。Sebastianoは他2試技も安定してmean WR 22.00も出しました (ちなみに初めてmean WR sub24.00を取ったのはReto Bubendorfの23.00でした)。16手が公式で出て次は15手ですが、optimal15手のスクランブルは全体の0.2%であり大会で500回試技をして初めて1回出るかどうかの確率です。さすがに出ないでしょう…いや出ないでくれ。もうここまで来たら競技としてどうなんだって話もありますがそれはまた別の話。
2019年のメルボルンでの世界大会で事件が起きました。Skewbの予選1回戦のあるグループでUpermさえ回せば揃うスクランブルが出てきたのです。このグループにはスキューブのトップ層はおらずせいぜい5、6秒の競技者ばかりだったのですが、みんな揃って1秒台を出しまくってNR更新祭りでした。そしてこのUperm選手権の優勝者は0.93でWRを更新したAndrew Huangでした。この事件を目の当たりにした日本人キューバーたちは「Skewb出とけばよかった~~」と口を揃えてぼやく事となりました。ちなみにWRを取ったAndrew Huangはボーダーにもかからず予選落ちしたというオチ。
Shivamが48/48を出してから更新は難しいだろうと思われていましたが、Grahamが50/52でWRを更新してからはGrahamの独壇場となり他を寄せ付けない勢いでWRを更新していきました。そして最終的に59/60というGraham自身のその当時の非公式最高ポイントである58ポイントを記録したWRにまで至りました。この大会はGrahamの意向を最大限汲み取ったようでMBLDがなんと3試技も行われており、Grahamはそのうち全てで当時のWR以上である54ポイント以上を記録するなどとても調子が良かったようです。Grahamが言うには、これで終わりではなく将来的に70個も視野に入れていると言っていました。そして今後もGrahamの一人勝ちかと思いきや、コロナ禍でRowe Hesslerが実力を伸ばし始め人類初の非公式59ポイントを達成しました。MBLDのWRはまだまだ伸びそうです。
3×3足競技は2019年12月31日をもって公式競技から廃止となりました。そのため2019年年末は駆け込みで足の大会が多く開催されました。Lim Hungは足競技が強いことで有名な男の子で、2019年の世界大会でもavg WRチャレンジをしていましたがWRは出せず。そして2019年の12月も終わろうとしていた時にLim Hungがついに人類初のavg sub20を出して初WRを取りました。最後の最後でWRが取れて本当に良かったと親目線で思ってしまいました(何様)。ちなみに足単発はこの数日後の大晦日まであと4日に迫った大会でインドの方が15秒を出し永遠のWR Holderとなりました。
Sebastianoがmean WR 22.00を出し、今後の更新は難しいだろうなと思っていました。しかしSebastianoのWR 16手辺りから急激にDRでsub23を連発する人が増え、誰がWRを取ってもおかしくないという状況に様変わりしました。その中でCale SchoonはDRが普及する前からDRの研究をしており、大会でも安定してsub25を出すなどWRの期待が高まっていました。そして年が明けて2020年、Caleは23, 18, 22というとてつもなく安定した記録でmean WR 21.00というとんでもない記録を出してしまいました。しかも18手とmean 21.00は自身の非公式PBであると聞いてさらに驚きです。今後はDRが世界を席巻していくんだなあと思わせたWRでした。最近だと日本でもRami君やたむそん君、今年始めたkzy君やRkid君がsub25を連発しており、世界や日本のFMC界隈は盛り上がっています。僕も負けてられないなあと常々思っています。
振り返ってみると色んなWRがあったなあと実感しています。WRを見るとその頃の世界トップ層や日本のキューブ界隈の事まで思い出されます。もう絶対更新は無理だろうと思っていてもいつかはWRは更新される。そんな変遷を目の当たりで見ていると、人間の力って凄いなあと改めて思います。
このコロナ禍でキューブを辞める人も多かったですが逆に自粛期間に練習しまくってWRレベルに上り詰めた人たちも多くいます。そんな人達がこれから開催されるであろう大会でWRをどんどん更新していくことを僕は願っています。
追記:公開前に幸地君に校正をしていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。